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マザーハウス

到着するとテニスコートくらいの大きさの庭がありそこで障害者たち30人がまだ柔らかい午前の日差しを楽しんでいた。ナマステーと大声を出し僕は手を振る。みんな眩しそうに手を振り返してくれる。
マザーハウスからバスを乗り継ぎ一時間。
ここはナボジボンというブラザーたちの家、男だけのボランティア施設。
足を引きずりながら走ってくる青年、車椅子に座っていながらも全身を動かし喜ぶ少年、ピクリとも動かない子、ダンボールを口に銜えブーブーと言いながら走り回っている子、障害は人さまざま。
ちょっと待っててと僕は急いで二階に上がりボランティア専用の貴重品棚に荷物を置いた。
喜んでくれるかな、アビー…
ポーチからイヤホン二個とデジカメと取り出す。
今日は僕にとって特別な日。
アビーとの約束を守る日、そして最後のボランティアの日。
ようやくみんなに顔を覚えてもらい緊張も解れだした頃に僕は去ってしまう。
昨夜ベットの上でもう一週間いようかと散々悩んだが逆に離れづらくなると思い今日の強行突破に踏み切った。じゃないといつまででもいれそうで恐かった。
キキキーキキー!!
イヤホンを見せるとアビーの声が一段と高くなりザモウストフォルテッシモの音階に到達した。
同時に視界いっぱいの笑顔が僕を包み僕は強く抱きしめられていた。
キキーキキキキーーー!!
OK!OK!!!
キキーーキキーーキキキ。キーキキーキキキキー!
REARY?
キキーキキキーー
Im Happy, too!!!
なんで通じているんだろう。いや、本当は通じ合ってなんかいないのかもしれない。
しかし両手と声のトーンだけで僕たちは十分だった。
3日前、マザーハウスで聞いた日本人シスターの話を聞いた。
マザーテレサがまだ生きている時も彼女はいたという。
愛は家庭から始まる
まずは小さなことから愛を示しなさい(おはよう、ごちそうさま、いってきます、ただいま、おやすみ…)
痛いということまで愛しなさい
周りの人の苦しさを知りなさい
自分の国に帰ったら自分の国でカルカッタを見つけなさい…
心にジーンと響いた。
時代を超え語り継がれるマザーテレサの言葉とシスターの心が重なり合ってそこにいた6人の日本人は異国の聖地で涙した。
このマザーハウスで僕が見たものは障害者たちの心の中だった。
彼らは必死で闘っていたのである、自分自身と。
どんなに話せなくても
どんなに歩けなくても
どんなに世界がなくなろうとも
太陽とともに強く起き、大地に根を張って、生きていた。
もしも彼らから僕たち日本人にメッセージがあるとすれば彼らはきっとこういう言葉を残すだろう。
今の環境を、今の家族を、今の自分を
幸せだと思ってほしい

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